椎間板ヘルニア
症例
整形外科
犬の椎間板ヘルニアとは
椎間板ヘルニアの話しの前に、脊髄と椎間板の話をします。脊髄は脳からの指令を伝えるために脊椎(背骨)のなかの空間(脊柱管)を通っています。犬の脊椎(背骨)は頸椎が7本、胸椎が13本、腰椎が7本の合計27本からできています。これらそれぞれの脊椎の間には椎間板があります。椎間板はその中心部に髄核というゼリー状の構造があり、その周囲を線維輪に取り囲まれています。椎間板は、ゼリー状の髄核により、脊椎にかかる衝撃を吸収する働きを持っています。この椎間板(髄核or繊維輪)が飛び出し、脊髄を圧迫するのが椎間板ヘルニアです。
椎間板ヘルニアの分類
椎間板ヘルニアはハンセン1型とハンセン2型に分けられます。
ハンセン1型
ダックスフンド、シーズー、ウェルシュコーギー、ビーグル、コッカースパニエル、ペキニーズ、ラサアプソなどの軟骨異栄養性犬種に起こりやすいタイプで、線維輪が破けて、髄核が脱出し、脊髄神経を圧迫します。軟骨異栄養犬種は椎間板が若齢のうちから変性を起こし、椎間板の衝撃吸収能力が低下します。このような椎間板に強い力が加わることで、椎間板ヘルニアを発症します。このハンセン1型の椎間板ヘルニアの多くは3〜6才の若い年齢で、急性に発生します。
ハンセン2型
加齢に伴って椎間板が変性し、厚くなった線維輪が脊髄を圧迫します。このハンセン2型の椎間板ヘルニアは成犬から老犬に多く、慢性的に経過する事が多いとされています。
胸腰椎椎間板ヘルニアの重症度
椎間板ヘルニアはその重症度によって5つのグレードに分けられます。
特にグレードの4〜5の差は、予後の差に非常に大切で、グレード4とグレード5では治療後の改善率が大きく異なります。とくにハンセン1型を起こしやすいダックスなどの犬種は、昨日までグレード1だったのに、いきなりグレード5に移行することもあるため、内科療法選択した場合、治療ををおこなっている間にグレードの進行が起こっていないかの注意することはとても必要です。
椎間板ヘルニアの治療は大きく分けて内科療法と外科療法に分けられます。
内科療法
内科療法は脊髄の圧迫の軽度な子、症状の軽い子に対しておこなわれます。ただし、ダックスのような軟骨異栄養犬種はグレード2(不全麻痺で歩行可能)でも、CTなどの検査をおこなうと、圧迫は重度な場合もあります。このような子の場合、内科療法をおこなっても症状が進行したり、急に歩けなくなったりすることもあるため、このような犬種では今の症状が軽いからといって安心はできません。内科療法の基本は安静になります。安静というのは散歩などに行かないという程度のものではなく、ケージレストといって、トイレなどに出すとき以外は、狭いケージの中でじっとさせておくというかなり積極的な安静が必要です。安静の期間は脱出した椎間板が安定する4〜6週間は必要となります。また、内科療法では、NSAIDS(非ステロイド系消炎鎮痛剤)またはステロイドの内服やその他薬物、レーザーなどを併用する場合があります。
ただし、最も大切なのはケージレストによる安静で、薬物は補助的なものでしかありません。飼い主さんの中には薬は飲ませることで安心してしまい、ケージレストを守れない方がいらっしゃいます。確かに6週間ケージの中に入れておくのはかわいそうかもしれません。しかし、ケージレストが守れずに、一生歩けなくなることもありえるかもしれません。内科療法を選択した場合は、くれぐれもケージレストを守って下さい。また、内科療法の場合、外科療法に比べると再発率が高い(1/3に再発がみられたという報告があります)ため、グレード3以上では外科手術をおすすめしています。
外科療法
外科療法はいわゆる手術のことです。外科療法で最も大切なことは、原因となっている椎間板の場所を特定することです。当然ですが、異なる椎間板の場所を手術しても改善はしません。手術の場所を特定するためには、脊髄造影、CT、MRIなどの検査をおこないます。当院では脊髄造影よりも、より正確に場所の特定ができるCT検査をおこなって、手術をおこなっています。手術では、原因となっている脱出した椎間板物質を摘出しますので、術後は基本的にはケージレストは必要としません。術後は早期にリハビリをおこなっていきます。
実際に椎間板物質を取り除く瞬間↓
グレード5になると、内科療法では改善率は5%以下で、外科手術でも改善率は60%程度です。また、ダックスのような犬種はグレード3や4から急にグレード5に進行する事があるので、当院ではグレード3以上では手術をおすすめしています。